世界を動かすトイレの伝道師、ジャック・シムさん

不動産ビジネスで成功を収めたのちに突如、トイレ問題に向き合う社会起業家として活動をはじめたジャック・シムさん
政府、国連まで動かした彼の活動の原点とは? 来日されたシムさんに、東京でお話を伺いました。

ジャック・シム(Jack Sim)さん
40歳で社会起業家に転身した元起業家。World Toilet Organizationをはじめとする7つの社会的事業を手がける。2013年には11月19日を「世界トイレデー」に制定するよう提唱、国連総会で満場一致で認められた。現在は世界的に功績を知られる社会起業家として活躍。受賞歴、講演実績多数。

転機は40歳。社会貢献の道へ

——起業家として成功を収めていたさなかになぜ、突然、社会起業の道に進むことを決めたのでしょうか?

ジャック・シム:40歳の誕生日に、ふと、自分が80〜90歳まで生きると考えた場合、40歳は人生の折返し地点だと思ったのです。80歳で死を迎えるならば、日数に変換すると14,600日、週でいうと2,000週と少し。まだまだ先と思っていたことを、数字で可視化してみると意外に時間がないことに気づき、残りの人生は社会貢献、そして他の人のために働きたくて、社会起業家になることを決意しました。

——ずいぶん思い切った決断でしたね。

ジャック・シム:すでに子どもの教育費やリタイヤしたあとの生活費の蓄えはありましたので、決断は早かったですね。

たかがトイレ、されどトイレ

——しかし、なぜトイレだったのでしょうか?

ジャック・シム:さまざまな社会問題があるなかで、多くの人が気象環境や水資源の問題に取り組んでいますが、私は誰もが問題視を避けているテーマにチャレンジしたいと思っていました。そこで、トイレの問題に向き合う人がいないことに気がついたのです。

現在、世界の24億人が、トイレに関する環境設備や下水処理の問題を抱えています

多くの発展途上国がトイレに関する問題を抱えています。特に女性に関して言えば、トイレ設備が不十分であることにより、自宅の裏庭で用を足す際に性的暴力を受けてしまうことがあったり、月経中に生理用品を交換するためのプライバシー環境が十分に整っていないために学校を辞めてしまう傾向が多く見られます。
また、下痢が原因で、毎年何千人もの子供が亡くなっています。彼ら・彼女たちに必要なのはまさにトイレ。水資源の問題、公衆衛生、健康、ジェンダーの問題。トイレの問題に取り組むことで、多くの病気や問題を“予防”できると信じています。

国連にも認められたMr.Toiletの働きかけ

——おっしゃるとおり、これまでトイレの話題はタブー視されてきた感があります。シムさんは、どのようにして、このトイレ問題の認識を社会へ広めていったのでしょうか?

ジャック・シム:トイレ問題は深刻な話題ではあるのですが、その一方、私はユーモアを交えながら、世の中の人々に認知してもらえるよう工夫をしました。その結果、メディアから注目を受けて取り上げてもらえるようになったのです。

—— Mr. Toiletというニックネームもそのひとつだとか?

ジャック・シム:はい、Mr. Toiletと聞くと、「何だこの人は?」と注目してくれるので、私自身プロモーションの一環にしています。今では、政治家も選挙の時に「トイレ設備の充実」を公約に掲げたり、国連も私たちの活動を認めています

たとえば、国連では、トイレにかかわる問題に対する人々の意識を高め、問題解決に向けて国際社会の取り組みを加速させるために、毎年11月19日を「世界トイレの日」に制定。これにより、私たちの活動に賛同する人々の数も年々伸びてきています。

次世代につながるフェミニン・フィロソフィー

——そんなシムさんは、2018年11月に開催されるMASHING UPで登壇を予定されていますね。セッションテーマである「Feminine Philosophy – フェミニン・フィロソフィー」についてアイデアを教えていただけますか?

ジャック・シム:私が活動しているトイレの課題は、次世代の未来を拓く活動だと思っています。今、世の中で議論されているダイバーシティを含めた社会課題の多くは、個人の志向の問題にされがちですが、私はそのような流れを作った社会の構図にこそ問題があると思っています。

私が今回のセッションでお伝えしたい“フェミニン・フィロソフィー(女性的な哲学)”とは、誰が敵で味方かではなく、お互いを尊敬しあえる次世代の社会づくりにつながる思想です。 私は衛生、教育、格差など様々な切り口で社会問題に取り組む中で、社会や環境への被害を鑑みないまま技術革新に取り憑かれた社会に疑問をおぼえ、ある種東洋的な「フェミニン・フィロソフィー(女性的な哲学)」の重要性を感じています。

フェミニン・フィロソフィーとは、競争や対決を好むいわば男性的な手法ではなく、お互いを尊重し合うことで学びを得ようという考え方。各人の独創性を後押しして、常に社会全体の成長を促すような思想です。わたしは、この考えがダイバーシティを考える上で重要だと考えていて、トイレの問題にも、この観点から取り組みたいと思っています。

——シムさんが、このフェミニン・フィロソフィーを考えるようになったきっかけは何ですか?

ジャック・シム:母親からの愛情です。母親は、小さい頃から、私が大学で落第した時もずっと、私を信じて無条件の愛情で接してくれました。母親はいつも味方でいてくれる。そう信じることで、自分がやりたいことも突き進むことができるのです。私が自然に、社会起業家への道をすすむことができたのも、母の愛情があってこそ、だったのだと思っています。

BOPビジネスハブの構築にチャレンジ中

——ところで、シムさんはシンガポールでBoP Hubという企業を立ち上げていらっしゃいますね。BOP(Base Of Pyramid)とは、世界の所得者層をピラミッド型のグラフに描いたときに最下部を占める低所得者層で、全世界人口の約7割である約40億人が属すると言われています。シムさんが手がけるのは、そのような世界中のBOPビジネスのハブを目指すものと伺っていますが、これからの活動について教えてください。

ジャック・シム:BoP HUBは企業としても実在していますが、独自のプラットフォーム上で世界中の人々が繋がることが可能になるシステムも構築中です。BOPビジネスネットワークのハブとなり、より多くの社会問題を解決できるようになりたいと思っています。そして、私たちと一緒に、次世代の社会をつくってゆく多国籍のチーム作りにも力を注いでいきたいと思っています。

——11月MASHING UPでさらなるお話を伺えるのが楽しみです。ありがとうございました!

Mr. Toilet ジャック・シムさんが「MASHING UP」登壇決定!

2018年2月に第1回目を開催し、異なる領域で活躍する人々が国内外から約800人集まり、ネットワークを創出したカンファレンス「 MASHING UP 」。

第2回目は11月に東京・渋谷トランクホテルで開催決定、カルティエの協力により今回インタビューを伺ったMr. Toiletことジャック・シムさんも登壇し、氏のテーマである「フェミニン・フィロソフィー」についてお話しいただきます。

今、グローバルな社会で何がおきているのか、私たちは何ができるのか。そして、その原動力になりうるものは? 等々を学び、考えることができる貴重なチャンスです。ぜひ、ご参加ください。

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取材・文/中村 寛子、撮影/野澤 朋代
sponsored by カルティエ